歩論野亭日常

阿寒湖の辺りで

七月下旬はなんだか閑散としていた阿寒湖も、

やはり八月は忙しく、

ポロンノもありがたい事に毎日お客さんに恵まれて、

毎日朝から仕込みをして、

帰るのは夜も遅くなってから、という毎日。

楽しい事も多いけど、

自転車に乗って山に行ったり、

キノコを探して阿寒湖の素晴らしい森の中を歩いたりする時間が取れないと、

心がどんどん痩せてくるのを毎日自分で感じていた。

この世界は何事も作用と反作用で成り立っているので、

心が痩せてくると、人は代わりに何かでそれを補おうとする。

一番簡単なのは、手軽な快楽の摂取である。

飲食や娯楽や安い感動や興奮。

一時的にはそれでもいいのだが、

そればかりで身体を動かさないのは、

頭と身体と心の健康に良くないのは自分でもわかっている。

やはり森の中を歩いたり自転車に乗ったり山に登ったり踊ったりして深く呼吸して汗を流し、

ありとあらゆる存在に囲まれそれを感じる感覚を自覚する事が俺には必要なのだ。

今はしかし、まだその時間はとれないが、

唯一毎日、自宅と店の間の行き帰り、

道端の植物たちの様々な色やデザイン、

日々変わる風景の全体的な印象と細部の妙の間で、

視線を行ったり来たりさせて目で味わい、

これまた季節の移ろいや天気によって変わる空気に漂う香りのグラデーションを、

生まれつき人間が備えた高度な大気中分子分析センサーである鼻で取り込み、

目を瞑って脳で存分に味わったりして、

わずか片道十分ぐらいの時間ではあるが、

とりあえず愉しんでいる。

最近の見所は蕗の葉の色合いと反魂草の花、

嗅ぎ所は桂の葉の甘い香り。