歩論野亭日常

阿寒湖の辺りで

まりも祭の祈り

コロナで長らく中止になっていた「まりも祭」二日目も無事終了。

行進や送る儀式は雨で中止になっちゃったけど、いつも通りみんなで船に乗って、やることは色々とやって無事儀式は終了。また来年もみんなで再会を祝いたいものです。

祭りが終わって各地から阿寒湖へとやってきたウタリのみんなも帰って、コタンで感じる風の冷たさには、例年通りいよいよ晩秋の予感を覚えるけども、明らかに気候がおかしなことになっていた今年はこの北海道の道東でも九月の半ばまで延々と夏が続いて、最近唐突に秋が来たような冷え込み。紅葉も二週間は遅れているらしいし、白糠の先輩も「海で獲れる魚がすっかりおかしい。南の魚ばっかりたくさん入る。よっぽど水温が高いんだよ」といっている。

「まりも祭」は元々、乱獲や水質の汚濁でまりもが激減したことへの反省と阿寒湖の大自然への感謝から、当時の山本太助エカシをはじめとする人々によって始められた、いわばSDGsを先取りするようなアイヌの元々の思想に基づく「奉り、祀り、マツリごと」であって、そこに観光地である阿寒湖の特色も合わさって出来上がった「祭」だ。

特別天然記念物であるマリモは、世界中でも生息地は限られている。そして完全に球形になるのは阿寒湖のものだけといわれている。いまだに阿寒湖のマリモがまんまるになる原因は正確には判明していないが、微妙な環境のバランスの故に成り立つ奇跡的な事象であることは、おそらく間違いない。

マリモの生息地であるチュウルイ湾に浮かぶチュウルイ島に船で向かうと、いつものように圧倒的で雄大な素晴らしい阿寒湖畔の大自然が一望にできて、本当に素晴らしい。でもいつもなら色とりどりの紅葉が楽しめたはずの森が、未だ青い葉の多い様を眺めていると、その中に生きる膨大な、微細な生き物たちの関係性が生み出す精密で繊細で複雑極まりない生命の営みのバランスが、もしかしたら崩れかけているのではないか、まりもを産み出すこの自然は、いったいいつまで存続できるのか…なんて想いが湧いてきて胸をチクリと刺して、地球の宝のような多様木々と生き物の織りなす素晴らしい森を眺めながらもなんだか切ない息持ちになった。

船はチュウルイ島に接岸する。各地のウタリは船を降りて、順路通りに島のマリモ観察センターに歩いて行く。しかし阿寒湖のコタンの面々は逆から歩いて、毎年いつもの儀式の場所である島の森の中に集まって、この我々皆を生かしてくれる、優しくて偉大でおおらかで有り難い、阿寒湖のカムイと大自然へと祈る。生かしてくださっている感謝とともに、人間たちがその自然に対して無法にも傲慢にもならないように自らを律するための誓いを祈り、先祖たちに対して自らが道を踏み外さないように、子孫たちが平穏無事に暮らせるように見守ってくださいと、各々がそれぞれのやり方で祈るのだった。このマリモの住む湖のマリモの島は、そんな祈りにふさわしい場所かもしれない。俺もやはり俺なりに、これからもずっとこの祭りができますように、この阿寒湖の素晴らしい自然がいつまでも有りますように、この素晴らしい阿寒湖や北海道や地球の生き物たちが、愚かな人間たちのせいでこれ以上いなくなりませんように、と祈らずにはいられなかった。また来年もできますように。