歩論野亭日常

阿寒湖の辺りで

交じり合う

自転車は素晴らしい道具だ。

景色を感じ、

周りの音や香りを感じ、

自分の身体を感じ、

それらすべてが一体になったような感覚。

毎日夕方にMTBを走らせる。

阿寒湖の出口の近く、滝見橋へと行った。

橋の下の阿寒川源流部へと降りて行き、

川や森やキノコを見ようと思ったのだ。

様々な、なんともいえない香りに満ちた空気を呼吸しながらペダルを漕ぐ。

ありとあらゆる木々や草花、

動物や虫や微生物の生きる匂い。

7月下旬の空気は爽やかで甘く、

少し湿気と粘り気のある風の中に

咲く花々や葉の香りが溶け込んでいる。

複雑すぎて脳はすべてを理解する事ができない。

ただ全力で感じる事ができるだけだ。

脳と細胞が刻一刻とアップデートされて行くような感覚を覚える。

橋のたもとにMTBを置いて、

釣り人達が作った道を降りて行く。

道端のフキの葉と、

その上に絡みつく山葡萄のツルと葉が、

見えない法則に従ってとても美しい、見事な模様を形作る。

思わず見惚れ、足が止まる。

山葡萄の葉の上には、

よく見ると小さく綺麗な甲虫が、

あちらこちらにじっと止まっている。

虫たちは交尾していた。

7月下旬の山葡萄の葉の上は、

名前も知らないその虫たちが出会う場所だったのだ。

知らない出来事に触れる事は楽しい。

しばらく観察して気付いたが、

上で頑張る雄を乗せながら、

下の大きな雌は葡萄の葉をモグモグ食べている。

なんておおらかでリアルな行為の現場なんだろう。

生と性と食が直結している光景。

とても美しい。

考えてみれば、

この世はすべてこの法則で動いている。

単純なものがより複雑になる為に、

異質なもの同士に働く力に引き寄せられ、

異なるものを受け入れ、

絶えず新しい何かが産まれている。

そして世界はより複雑でより神秘的で、

より美しく変化していく。

蜂に花粉を運ばせる見返りに蜜を出す花は、

しかしなぜあんなに美しく咲くのだろうか。

なぜ自分はそれを美しく感じるのだろうか。

異なる存在の間に働き、

それらを結びつける力を私は愛と呼ぶが、

もしかしたら愛の為せる技なのかもしれない。