歩論野亭日常

阿寒湖の辺りで

国道サイケデリア

阿寒湖住民の、大いなる不安と控え目な期待と共に開幕したGWは、

先制パンチの積雪で、サブプライムトヨタショックな諦めムードを裏付けはしたが、

しかしそんな空気も、その後に訪れた、

ここ数年例がないような温かさと客足の前に、雪とともにあっという間に消え去り、

気温も天気もコタンの通りも、ここ数日、まるで夏の最盛期のようである。

それもこれも、定額給付金とETC割引のおかげです。麻生総理ありがとう。

でも消費税の値上げは勘弁して下さい。

あと夏の衆院選挙だけは勘弁して下さい。絶対に。

さておき、おかげさまでポロンノも、結構な忙しさを享受しており、

ポロンノ軍団もアヘアへ言わされっぱなしである。

私も連日、鹿肉を切りまくり、昆布をあぶりまくり、

パスタを茹でまくり、(あ、『メフスパ』大好評です。絶好調です。)

まるでロボットのように朝から晩まで働いている。

今日の昼、CEOみーばーに、

「自由を愛するアイヌ民族が、こんなロボットのように働いていいんでしょうか」

と言ったら、たまにそういう時もないと困るでしょ! とたしなめられた。

そりゃそーだ。当たり前だよね、エヘヘ(笑い)。

とはいえ、遠路はるばる阿寒湖はアイヌコタンの当店まで来て下さる、

おそらく全宇宙からいらっしゃったお客様たちには、本当に感謝です。

明日からもがんばって料理作って笑顔で接客いたします。

なので、どうか明日からもよろしくね。

そんなこんなで夜になり、うって変わってひんやりとした空気の中を、

疲れ果てて家路につくと、今日の月夜は何とも格別なのであった。

雲ひとつなく澄んだ宇宙に、ラグビーボールのような形の月が、ピカーンと輝いている。

私の歩く国道の両脇で森の木々は、

輝く月と濃紺の夜の空の下、黒々といっそうに存在感を増してそびえたつ。

そんな木々のシルエットに目を奪われながら歩いていると、

川の近くに差し掛かったところで、かすかなビッキ達の声が聞こえてくる。

真っ暗闇の湿地のあちこちから、しんとした夜の森の下のほうからわいてくる、

まるで蛍の光が明滅するかのような、かわいくて素朴で赤裸々で夜這い的な、

ビッキ、エゾアカガエル達の、愛のアピール・バトルロワイアル歌合戦。

足を止め、しばし聞き入り、そして想像する。

この音、この空気、これぞまさに春の夜JAHないですか。

が、すぐにドキッとすることがあった。

ふと、森の奥の暗闇に目をやると、何かが光っているのが見える。

自分の目を疑うが、確かに何かが光っている。

水平に一列になった弱々しい光の点が、形を変え、ゆらゆらと動きながら、点滅している。

な、なんだこりゃ。

その幽かな光は、よく見りゃ他のとこにもあるではないか。

いずれも川沿いである。

まるでビッキ達の歌声にシンクロするように、儚げにゆらゆら、ちかちかしている。

ちょ、ちょっと怖えーぞ、これは。

しばらく観察したが、さっぱり正体はわからない。

最初、カエル達が光っているのかと思ったが、そんな訳ないし、

ホタルかとも思ったが、んな訳ないし、

動物の目が光ってるのかと思ったが、あんなにたくさん、しかも一列にいる訳ないし、

そうだ、川に月の光が反射してるに違いない、これだ! と思ったが、

少し歩いて場所を変えても、おんなじように見えているではないか。何故だ。

しかし、近くに行って確認しようという勇気はない。

ちょっと怖くなりながらも、目を凝らして見続けていると、

暗闇の中のビッキの、幽玄な歌声と相まって、なんだか頭がボーとしてきて、

しばらくその場でウロウロと見続けたのだが、

ふと、俺はもしかして悪いカムイか、

タヌキかキツネに化かされているのかもしれない、などと思い、

それに後ろではお構いなしに車が往来しており、

もしかすると知り合いが、あ、あいつ、何やってんだ怪しい奴め、

なんてことで明日以降変な噂になったらやだな、と思い、

頭の上に?マークをつけながら家に帰ったのであった。

家に帰り、妻にそのことを話し、

俺、もしかして悪いカムイに化かされてたんじゃね、というと、

妻は、なんで?いいカムイかもよ、と言うので、

そうだな、きっともって、

『お前、今日がんばって働いたな、ご褒美に変な光を見してやろう』

ってことだったのかも、といったら、妻は呆れて、さっさと寝てしまったので、

今、こうして私はこれを一人で書いているわけだが、

やっぱりちょっと怖い。