歩論野亭日常

阿寒湖の辺りで

サイン・オブ・ザ・タイムズ

娘に起こされ、今日は早く目覚めた。

おかげではっきりとフルカラーの夢を覚えている。

スキー場のてっぺんからグライダーで飛び立つと、

眼下には釧路湿原が広がっている。

急降下で丘に降り立つと、

濡れた黄色い草の上には巨大な熊の足跡と、湯気の立つ糞がある。

逃げようとすると、目の前には大スズメバチが群れている。

熊の気配が濃厚な茂みを避け、違う獣道を行けば、

その先は何故か、生まれ育った商店街の夏祭りの夜。

昭和の人通りは活気に満ち、連れは私をおいて道の先へと歩いていく。

子供たちと朝ごはんを食べながらテレビを見るが、

はっきりいって、最近のニュースは教育に悪いと思う。

今日のネタは、ガザ地区の殺戮と異常な犯罪の顛末と派遣切り。

スイッチを切り、夢のせいか、熊の足跡が見たくなり、森に行く事にした。

ちらちら・ゆらゆらと雪の降る中、白い森の中を歩く。

二十センチほどの雪を踏みながらなので、すぐに息が切れてくる。

真っ白な林道には、狐やウサギ、リスの足跡は見えるが、

お目当ての熊の足跡は今日は見つからなかった。

時々立ち止まり、辺りの気配をうかがい、耳を澄ましても、

聞こえてくるのは自分の荒い息と、遠くでさえずるカケスの声だけ。

こんな素晴らしいひとときでも、遥かどこかの不安な情報が、ふと心によぎる。

それがちょっといやなので、すぐに忘れるようにする。

そのまま湖へと歩いてみる。

年内には凍らないと思っていたのに、見れば、半分ぐらい凍っている。

試しにのってみたら、一瞬でたわみ、水が浮いてくる。

張りたての氷の上にふっかりとした雪がのったので、厚くなるにはちょっと時間がかかるだろう。

この瞬間にも、アマゾンや中国や日本や世界のあちこちで、大量の木が伐採され、

また、日本社会を維持するために膨大な生物や資源たちの体は分解され、

取り返しのつかないスピードで炭素は、かつてその一部だった体から解き放たれ、

大気中へと放出されているのだろう。

そんな事が頭によぎる。

温暖化が本当で、それが人為のせいかは私にはわからないが、

阿寒の冬は年々暖かくなり、雪はますます少ないような気はする。

それでも、凍り始めた湖の風景に、私はちょっと安堵する。

テレビが何を言おうと、いつもどおりに四季はめぐっているじゃないか。

コタンの共同温泉に入って顔を洗い、店を開け、薪ストーブに火をくべる。

昼になり、少々の来客があり、引けた後で常連さんの石川さんが来店。

コーヒーを出し、薪ストーブのそばで雑談に花が咲く。。

話は縄文農耕の話から北のシルクロードの話に飛び、

そのうちに環日本海交易の話から、北朝鮮の話になった。

タモガミ氏の話ははやらないかもしれないが、おかしなことなんぞ言っちゃいないと、彼はいう。

国際政治の世界は話し合いなんぞで解決るとは限らない切ったはったの世界であるという。

明治維新後、交易立国以外の生存法を持てなくなった日本は、

貿易が駄目になった世界大恐慌後、自力で資源と市場の獲得を目指し、

結果、日本人その他合わせて2400万の死人を出し、大失敗した。

アメリカ経済がへたばっているかに見える今、

再び軍事力による冒険主義的解決を、日本は目指すのだろうか。

・・・・・なんていう話を、ド山奥の阿寒湖のほとりで、おっさんと兄ちゃんが話しているのだった。

これを贅沢といわずしてなんといおう。

東京じゃ、麻生総理も派遣切りされそうでワヤなのに。

石川さんも帰り、無人の店内で掃除などをするうちに日は暮れ、

今度はY本エカシがやってくる。

またコーヒーを出して薪ストーブのそばで四方山話。

麻生総理の悪口ののち、エカシは笑いながら言う。

ロシア人力士たちはとばっちりだ、ありゃ麻生が悪い、

何故なら、麻を生やすなんて名前の総理だもの。

そういや、今年はめったやたらに大麻で人がつかまる年だった。

総理の名前が名前だもの、しょうがないよ。

・・・・・たしかにそうかもね。

まあ、そんなこんなで今年も色々ありました。

世界も阿寒湖もワヤですが、

なんだかんだでポロンノ一家は、正月の餅ぐらいは何とかなりそうです。

鬼に笑われるかもしれないけど、来年もどうか、良い年でありますように。

今この時に、色んなことがおきているだろうけど、

それはいつか、全ていいことにつながっていくと思います。

それでは皆様、良いお年を。