またたく間に訪れた冬景色に包まれた阿寒湖。
開店の為、真っ先にやることは、火を入れることだ。
薪ストーブに火をくべると、ゆっくりと周囲の寒さがとかされていく。
それだけでは足りないので、奥のファンヒーターのスイッチを押す。
中で燃やされて熱エネルギーへと変換される灯油は、
当然のことながら販売店から購入したものだ。
1リッターを買うのに100円でお釣りがくる値段だ。
100%国内産である牛乳はもとより、こんな値段で買えるジュースはない。
いくら牛丼並盛280円の世の中とはいえ、異常に安いと言っていい。
なぜならその灯油は元々釧路にあるものではなく、
国内のどこかの精製工場から、何百キロも輸送されてきたものだ。
その過程でも大量の軽油が燃やされ、熱とその他の化合物に変化している。
精製工場に運ばれる原油は、地球の反対側の、
はるかに遠い中東から大型タンカーで輸送されたものだ。
元々遠く離れた砂漠の中の、地下の深くから汲みだされたものだ。
ポロンノでストーブを焚くという行為の背景にある、なんという手間。
恐ろしいほどの労力が費やされているというのに、
世界中の人々が欲しがっている現代文明の必要不可欠な資源なのに、
掘りだされた原油を売る時の値段は、リッター50円にもならないだろう。
最終的な小売価格に至るまでの膨大な労力。
生きた、たくさんの人間達の労働を購う対価を生み出すために、
そしてエネルギー企業の天文学的な利益を維持するためには、
大量に消費され、原価は二束三文でなければならない。
しかし今、例えば我々日本人が、
世界中のマグロという種を食い尽くそうとしているように、
中東の石油はいつの日か枯渇する。
現地政府が独自に値段を決定し、販売を行うという試みを、
ことごとくクーデターと軍隊で潰すことに成功してきたからこその現在の原油価格ではあるが、
未来永劫、ミネラルウォーターより安い灯油を買う事は出来ない。
そうなったら、いや、そうなりそうな兆しが見えた時、
この世界を覆い尽くす産業文明はどうなってしまうのか。
そしてポロンノはどうなってしまうのか。
そして私はどうすればいいのだろうか。
などという事を、暇な店内の中で、
薪ストーブで温まりながら今日、考えた。
それ以外の時は、漱石の『坊ちゃん』を読んでいた。
掃除でもしろよ、俺。