歩論野亭日常

阿寒湖の辺りで

2013年初めてのねぎ採り

2013年の阿寒湖のGWは

毎日雪が降ったことで記憶されるだろう

毎日のように吹雪でストーブはフル回転

燃料代もばかにならない

その他に俺が気を揉んでいたのは

毎日のようにSNSに投稿される

各地の行者ニンニク(通称ねぎ)採りの情報だった

山を降りた釧路や阿寒町

帯広や北見などで

美味しそうなねぎを採る喜びの声を

雪景色の阿寒湖の厨房の中で見る焦燥感

これはまずい

早く行かなければと

仕事をしながら焦りばかりがつのっていた

そんな中ありがたいことに

常連のお客さんや

浦河の親戚から

今年の初物を戴くのだが

貴重なものを頂戴する感謝と共に

やはり焦りを感じる

もしかしたら俺は出遅れているのではないかと

そして今日

GWも明けて人の往来も疎らとなり

ようやく行くことができた

天気はあいにく

まるで当たり前のように雪が降っているが

山を降りたら季節も変わるだろうし

道中の山を様子見がてら出かけた

車を運転しながら

途中の山の様子を見ながら

今日行くポイントのことと

熊のことをずっと考えていた

今年は熊が多いという

上飽別から上はまだ雪が残っている

ということは熊たちは

雪のない暖かな阿寒町や鶴居

釧路湿原の方面に降りて

餌を探しながら歩いているだろう

それは自分の行く方向でもあるから

頭の中で

出会った時のシミュレーションを何度も繰り返す

なにしろ

今年初の奥山である

毎年のことであるが

最初が一番緊張するのだ

しばらくしてポイントの入り口に到着する

車からおりて

山の入り口でまずは挨拶をする

ここで

米を忘れてきたことを思い出す

迂闊さを反省しながら

タバコに火をつけて石の上に置き

オンカムイしながら山の諸々の存在に挨拶をする

これがシーズンインの自分なりのやり方なのだ

笹をこいでしばらく歩き

ようやくポイントにたどり着く

ここは去年のシーズンの終わりに発見した場所で

もう伸び切っていたため採るのをやめ

次に訪れるのを楽しみにした場所だった

道中出始めの小さく細いねきが見えていたので

もう多分あるはずである

ほどなく太いねぎの集団を発見する

思わず笑みがもれる

感謝しながら近寄り

笹とフッキソウの中にしゃがみ込み

生えている太い一本をいただき

匂いを嗅いだ

おなじみの強烈な香り

白い茎をかじってみる

強烈に刺激的で

しかし甘くたまらない味がした

やっと春がやってきた

それを鼻と舌で実感する

笹や落ち葉の中に点々と点在する集団を

間引くように採りながら探し

どんどん沢筋の奥へと歩いて行く

風が大変強く

木々はぎいぎいと音をたて

カラスはぎゃあぎゃあと鳴き

笹は海の波のようなホワイトノイズオーケストラを奏でる

まるで森というより音の中にいるようだ

声を出しながら歩くが

こういう日はやはりちょっと恐ろしい

こちらの存在に熊が気づかない可能性があるからだ

五感を集中し

音をたてて歩いても

これでは周囲がまるでわからない

今シーズン初めての山ということもあり

だんだん恐ろしさが強くなる

さっきからカラスが鳴くのが気になってはいた

そして奥に歩くにつれ

それはだんだん近くなってきた

川筋からちょっと上がった谷地に上がった時

向こうの地面にカラスが数羽降りて行くのが見えた

確認しに行くと程なく

広く黒土露出して盛られたような場所に

カラスが群がっているのが見えた

やばい

もしかすると熊の餌場かもしれない

そう一度考えてしまった瞬間に

俺の恐怖はピークをあっさり超えた

即座に振り返り

足早にその場を離れる

辺りを必要以上に見回しながら

息も荒く撤退する

心の何処かでそんな自分を滑稽に思いながらも

熊への恐怖が足を動かす

見たわけでもないのに

車にたどり着いて装備を外しながら

脚はまだがくがく震えていた

帰りの運転中にも動悸はなかなか収まらなかった

しかしこんなことで

今年もちゃんとねぎを採れるのだろうか