歩論野亭日常

阿寒湖の辺りで

カビキラー

今日は我が町内の共同清掃があった。一軒から必ず一人徴兵、いや協力しなければならない。国道脇の花壇の整備は人選から漏れ、あとはコタン裏の沢の掃除か、旧森と湖の芸術館周りの片付け、そして長年の懸案であった共同浴場の天井のカビ落としである。

自然を愛する私としては、緑あふれる外での作業を内心望んでいたのだが、風呂の掃除を仰せつかる事となった。担当者の薫ちゃんの話では4.5人の人員を手配済みとのことだったが、現場には私を含めて二人しかいないのだった。まあでもそれはいつものことであり、嘆いても仕方がないので同僚と二人で粛々と進める。

まずもうもうたる湯気の中、風呂場の中に足場を組む。共同浴場はモダンな作りとなっており、湯船の上の天井が高い。高い天井の近くにある窓から入る日光を浴びながら湯船に浸かるのは最高ではあるが、しかし天井が高すぎて掃除ができないという欠点があるのだった。そうして手をこまねいているうちに天井がカビでみるみる黒くなって行くのを、長年我々コタン住民はなす術もなく眺めていたのである。しかしついに今日、我々は思い腰を上げ、カビを撲滅する戦いを始めたのだった。といっても人員は二名なのだが。

足場を組んだパンツ一丁の二人は上に登り、カビに無慈悲な攻撃を加えた。カビキラーを吹き付けちょっと待ち、その後ブラシでこすり、とどめは高圧洗浄機で刺す。ほぼ完璧な作戦ではあったが欠点もあった。天井に吹き付けたカビキラーは重力で下に落下する。しかし我々は天井を綺麗にしなければならないので、当然上を向いて仕事をしている。さながらシスティナ礼拝堂を作成するミケランジェロのように上を向いて作業する我々の顔の上に、カビキラーが落下し、時に目に入る。当然痛いので、いちいち洗浄で作業を中断しなければならない。とてもつらい。しかも上からの飛沫を浴びながらの作業であるので全身ずぶ濡れのヌルヌル。とてもつらい。さらに高い天井近くの窓も換気扇も多湿環境で壊れており機能せず、つまりは塩素がこもるので目がしぱしぱする。とてもつらい。

とはいえ我々はがんばった。数時間の戦いの末、結果としてはだいぶ綺麗になったのではないか。町内会長も我々の頑張りにうたれたようで、あとでご褒美をくれるらしい。ちょっと嬉しい。

ただ今気になっているのは、シャワーを浴びたのに未だに身体が塩素臭い事と、薄い頭部に浴び続けた塩素の影響である。貴重な毛根がもし死滅していたとしたら…その時は裁判しかあるまい……