歩論野亭日常

阿寒湖の辺りで

たもぎたけ

ここ数年、『エゾ梅雨』なんて言葉が日常で使われ始めた。

「北海道は鬱陶しい梅雨がありませんよ~」なんてのが、

猛暑に苦しむ本州の神様仏様お客様への、初夏の北海道の観光上売り文句だったのが、

段々と、時に非常に爽やか、しかし時に猛暑、時々ジトジト、そしてシトシトといった具合に。

温暖化のせいなのかは知りませんが。なにせ昔を知らないもので。

しかし阿寒湖の先輩たちは、

「最近は梅雨があるな~」「あち~、温暖化だ~」

なんつってっから、多分そうなんだべ。

夏の観光戦線開始の時期でもあるこの季節、例年ならば、

GWでどん!→その後ガラーン→徐々に盛り返し→夏にドカーン!

の「夏にドカーン!」にそろそろ差し掛かりぎみになっていいはずなのだが、

今年の場合、「その後ガラーン」が続きぎみの情勢である。

やっぱ不景気のせいだべか。

サブプライムに端を発する国際的な原油価格の高騰のせいだベか。

サミットや北京オリンピックのせいでないべか。

最近キチガイの若者のニュースが多いから、外出自粛気味なんだベか。

温暖化で車や家電ををエコ替えしないといげねーがら、

貯金しなきゃなんねくて、旅行っ子さ出られねーんだべが。

これらは、実際に阿寒湖観光産業不審の理由として、

湖畔住民たちの井戸端分析会議で言われたことである。

わすにはなんだがわがらねー。

なにせ、伝説的な木彫りバブルの時代を知らんもんで、

今の状況も、

「まあこんなもんかな~、まあなんとかなるっしょ」

なんて思っちゃってるし、言ってるんだよね~。

なんつったら、「お前は気楽でいいね~・・・」「もっと働け!」なんていわれるけどさ。

いや実際、もっと頑張らんといけないんだけどさ。

しかしここ数年、この時期になると変わらず「どーん」とラッシュが始まるものが。

それがレモン色の美味しいキノコ、「たもぎたけ」。

もうそれこそこの時期は、山さ行けばなんぼでも採れる。

特に『エゾ梅雨』の上がった次の日からは大発生。

そんな時などコタンの人々は、みんなで行って両手の袋にいっぱい採って来るのだ。

今時期のコタンは、毎晩たもぎ入り味噌汁で決まりだ。

しかしSフチなどにいわせれば、

「昔はそんなに誰も採ってなかったよ~」

「なんで?」と僕。

「だってそんなになかったもの」

「ホント?じゃあ何で今はいっぱいあるの?」

「あれでないの、あのキノコはタモ(木の名前)やなんかの死んだやつにつくっしょ?だからでないの~?」

「だからって、なにがだからなの?」

「ほら、鹿があのての木の皮を食べるベさ」

「ああ、なるほどね~」

ここ数年、阿寒国立公園内での鹿の食害の深刻さが問題になっている。

食害とは、具体的には、鹿が幼木や軟らかい木の皮を食べることをいう。

皮を一周食べられてしまうと、その木は北海道の冬を生き延びる事が出来ない。

で、死んで立ち枯れた木や倒れた木に、たもぎたけ大発生、ということか。

しかし近所の物知りエカシ、F俊さん曰く、

「鹿が木の皮食べるのなんて、昔からあったんだよ。当たり前の事だ」

「え、じゃあ何が問題なんすかね」と僕。

「鹿が増えたんだ」

「ああ、狼がいなくなったから」

「ちがう。狼はそんなに鹿、食べないもの。人間が増やしたんだ」

「???」

「牧草食って増えてるんだ」

広大すぎる北海道の牧草地は、いかに電磁防柵などで囲おうとも、

管理しきれず、必ず鹿の侵入を許してしまう。

美味しくて栄養たっぷりで食べ放題。

それでも昔の低開発時代なら、何年かごとの大雪で、必ず鹿は激減した。

しかし最近は、道路が網の目に整備され、

冬も北海道開発局の大活躍により、道路に雪はない。

しかも降雪量は年々減り、毎年二月に大雨が降るようになった。

自然淘汰も、ハンターなどによる人的淘汰圧力も低下し、

(これにはしかし、高齢化と資本主義化の、二つの原因がある。捕られる量は減り、しかも金になる雄鹿ばかりが狙われる。角があるから。本当に減らしたいならメスを捕らなければならない)

かくして鹿はどんどん増える。

しかも彼らも生きる為に必死だから、

鹿猟が解禁になる冬になると、猟が禁止されている国立公園内に集団で移動してくる。

エサが少ない冬の森で、必然的に、皮は食べられ、たもぎたけは増えるのだった。

まあ実際は、もっと複雑だろうけど。

でも物は考えようだ。

人為の中で、好景気不景気、もしかすると温暖化なんかもあり、

そんな人間を含む自然との係わり合いのなか、鹿も増えりゃあキノコも生える。

確かに今年の阿寒湖は、昔に比べりゃぱっとしねぇかもしらん。

でも余暇があればこそ、キノコ採りも出来るってもんだぜ。

おまけに鹿もいっぱいいるってんでしょ。うめーからなあ鹿肉。

美味い鹿肉あり、美味いキノコあり、美味い空気に水もあり。

なーんて書くと、なんだか天国って感じじゃね?

ああ、そういえば、そんな美味しい諸々が味わえる素晴らしい店が、

たしか阿寒湖アイヌコタンにあったっけな。

名前は、たしか、ポロ・・・・・