歩論野亭日常

阿寒湖の辺りで

楽しむことを学べ

朝起きると、輝くような快晴だ。

暑くなりそうな予感を孕んだ日差しだったが、

開け放たれた窓から今はまだ、初夏の清々しい風が入ってくる。

同時に、ここ数日、森の木々の発する、かすかな香りがする。

素晴らしい、としかいいようがない。

しかし同時に、着実に、そして確実に日々の装いを変える美しい自然の姿は、

同時に、世界に対し評論家然として無力な自分を実感させ、不安をかきたてもした。

起きて、なにかをしなければ。

妻と朝のあいさつを交わすと、突然、

「ついてる?」と妻が問う。

一昨日からの我が家のルールでは、そう言われたらこう返さなければならない。

「ついてるついてる!」

私はポーズまでつけてやったので、妻が笑った。

この「ルール」、馬鹿馬鹿しいことかもしれないが、

しかし一日はともかくも、笑顔で始まった。

ほかにもここ数日の妻との間のブームがあって、

とにかく「ありがとう」といいまくる、というのがそれである。

きっかけは、阿寒町は徹別に住む、

私の敬愛する平和的宇宙人系画家、阿部さんから借りた本による。

最初はふざけていたのだが(まあ、今も若干そうなのだが)、

それでも、このなんにでも「ありがとう」と言うことによって、

大概の事は好ましく感じられるような気がする。

これはいいことだ。

ポロンノへと出勤すると、

アイヌコタン広場は完璧な青空の下、ほとんど人気がない。無理もない。

こんな天気では誰でも、ドライブや自然散策などを楽しみたくなるものだ。

店を開け、掃除をし、仕込みをするが、そこから先はどうしたものだろうか。

店先で伸びをし、軽く体操する。

店先からコタンを眺めれば、平和そのもの。

みなやはりヒマそうである。

「待ちぼうけ」の歌の心境である。

私はまるで、切り株にウサギがぶつかるのを待つ、農夫のようなもの。

人事を尽くせば、あとは天命を待つだけだ。

店の中からは、昨日発売日にGETしてきたPerfumeの新譜がなっている。

オープニングから love the worldへの流れはとにかく圧巻である。

とても作りこまれた極上エレクトロポップ。

http://www.youtube.com/watch?v=ykt-e6xPtZU&feature=related

楽しい気分になって、店の中で本を読む。

梨木香歩の「家守綺譚」と「村田エフェンディ滞土録」である。

最近、初めて彼女の存在を知り、以来はまっている。

とても面白い。非常に素晴らしい。

元々これらの本は、入院中の友人の嫁さんにお見舞いとして渡そうと購入したのだが、

購入時、立ち読みをしすぎた結果、面会時間が終了という失敗を犯し、

以来、店にあるのだった。

まあ、旦那に渡してもらえばいいだろう。

その後も、ありがたいことにやってくるお客様への対応の合間、

(とはいっても合間の方が多いのだが)

日がな一日読んでしまう。

物事というのはとらえ方によるのであり、

この状況は読書には、いいにはいい。

いい休日を過ごしたと言えなくもないわけで、宇宙の配慮に感謝したい気分だ。

おかげで、二冊とも読み終えてしまった。

平和な一日をありがとう、神様。

店が終わり、ゆっくりと大音量でPerfumeの新譜が聞きたかったので、

去年漬けたミヤママタタビの酒を片手に、カウンターへと一人座る。

音楽も酒も素晴らしい。

練りこまれた中田ヤスタカの必殺シングル群と、黄金に輝く山の恵みの酒。

耳では極上エレクトロポップを味わい、

目は酒の美しい金色を味わい、

鼻は去年の秋の山の香りの名残を味わい、

舌と喉と食道は、まろやかでかつエネルギーを感じさせる酸っぱさを味わう。

なんて贅沢なんだろう。

ふと、さっき読み終わった「村田エフェンディ滞土録」の一節、

古代ローマの哲学者・セネカの言葉が頭に浮かぶ。

「楽しむことを学べ」

我々はもっと、そうすべきなのだ。